【あそぶ】
「影の領域」
ひかり町には影たちも棲んでいる。煙突型の古いポストの陰や、軒下で使われなくなった水盤の空洞が、彼らの縄張りだ。影たちは手紙を守っているので喋らないが言葉は使える。手を差し出すと掌に、そんなに長くは残らない影色の鏡文字を書いてくるので、しばし不審な会話が楽しめる。運が良ければ瞼の裏に「ひかり町十四番地」の消印を押してくれるだろう。消印が残っている間は、目を閉じればポストから見た町の眺めが、いつでも見える。
【ものがたり】
「遅れてきた手紙」
昔、自分の無事を妻に知らせた夫の手紙が、両者とも死んだ後、子の代になって届いたことがある。何かしら影の秘密に抵触したらしい。内容は「何の変哲もない」もので、手紙自体は残っていない。町の住人は「影の鍍金が剥がれると町中の女性が禿げる」という言い伝えがあるせいか、誰もその話題には触れたがらない。
(不狼児)