2012年02月29日

500文字の掲示板のこととか

問題点がずれている。
これは障害があるとか持つとか読者に対する配慮を求める話ではない。読んだ人間が誰も不愉快にならずに済むような書き方はない。そんなものは何も言っていないと同じだ。問題点はひとえに19の作者がハンデなどという中途半端に配慮した表現を選んだ点にある。どのような考えを持とうとそれを表現するのは構わないし、読んで違うと考えた人があれば批判を受けるだけだ。しかし批判も共感もそれを正確に表現した上でのことだろう。
ハンデなどと書かず足が立たないとか目が見えないとか首から上がないとか書いてあれば、読者は足が立たないのよ目が見えないのは優しい理由にはならない、首から上がないならそれはやさしいだろう、と判断できる。頭がなければ意地悪なことも考えられない。猿の惑星に生まれた人間の個だったら、大変なハンデではあっても人間は猿より残虐ではあってもやさしくはなかろう。寝たきりの植物人間ならば、消極的な意味でしかやさしくはあるまい。あるいは単に親ばかで、やさしくもないハンデのある子をやさしいと思い込んでいるだけかもしれない。とんでもない性悪な正確な相手を愛していると思って結婚するなんてよくある話だ。
或いは、アポリネールの短編にそんなのがあったが、その子は死んでいて、双方納得して茶番を演じているのか。存在しないというのは、結婚相手として相当なハンデだ。
ただこの書き方ではそのどれかがほのめかされているとも読めず、「ハンデがあるから優しい」というハンディキャップに対する偏見を助長するような考えはけしからんと非難されるのは仕方ない、というか当然でしょう。

その種の問題を取り上げるべきかどうかと言うより、元ネタがある場合には元ネタを知らない読者にわかるように書くのが最低限必要だろうと思う次第。

なんて500文字の心臓掲示板にコピペしようと思ったがやめた。
急いで書いたから言葉遣いが乱暴だし、作者が既に出てきているのに、叩くようで嫌だし、この期に及んで失礼だ。
でもせっかく時間をかけて考えたのだからしばらく貼っておこう。

しかしホント。
不用意な一般化は危険だな。特に小説では。個人攻撃や罵倒と取られても個別具体的に扱うべきだろう。すぐに男は、女は、日本人は、と一般化しないように。具体的にこれこれではなくハンデと言ってしまうのは、ヒトラーがユダヤ人資本家の誰それを非難する代わりに、ユダヤ人一般から非アーリア人まで一般化の範囲を広げていったのと同じ轍を踏む事になる。あるいは孫正義のやり方が汚い→在日韓国人が汚い→朝鮮人悪いと拡大解釈してゆくやり方と。自戒を込めて。

posted by 不狼児 at 22:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月26日

ひかり町ガイドブック 「人魚売り」

【自然】
      「人魚岩」
【ものがたり】
      「人魚の休日」 
              (オギ)


【ものがたり】

      「人魚売り」
「にんぎょー、エー、にんぎょーォオー」
  人魚売りのおじさんが声を枯らして叫んでいる。
「どうせインチキだよ」
  そうは言うけど。
  夏の昼下がり。路地はうだるような暑さで、日陰に入っても汗はなかなかとまらない。僕はおじさんを呼びとめた。
「エイらっしゃい」
  天秤棒の両端にぶら下がってる馬鹿でかい桶の寸法は半端じゃない。
  桶の中には若い人魚が体を丸めて収まっている。
  蓋をあけると、顔を上げた。
「あっ」
  と思うと人魚は僕の手を捕まえて桶の中に引き込んだ。桶の水は浅いはずなのに、蓋がしまっても中は明るく、水面は広い。足がつかないのに浮いていられるのは、人魚が支えてくれるからだろう。
「お願いがあるの」
  僕は人魚をかついで天狗岩を登った。
  天狗岩は岬で一番高く、海の上に突き出している。四方は海鳥が巣をかけるような断崖だ。
  暑い。かつがれた人魚も暑いのだろう。人魚の汗は清澄な海水のようだ。霧となって漂って、僕の額を涼しくする。
  海はいつになく青い。波は静かで、水平線までわずかな白波しか見えない。日差しは強烈だ。
  ようやく頂上に達して一息。
  肩の上では人魚が身を乗り出す。
「ああいい眺め」
天狗岩のてっぺんから、人魚はくるくると回転しながら尾を振って、はるか下方の海に向かって飛び込んだ。
「ありがとう」
  海辺にはもう夕方の涼しい風が吹いてくる。

              (不狼児)

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2012年02月23日

ひかり町ガイドブック 「禁猟区の蜜月」

【あそぶ】
      「リアル・スノードーム」
【ものがたり】
      「サマー・ノイズ」
              (空虹桜)
            *小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載

 

【ものがたり】

      「禁猟区の蜜月」
  ブランコ・シカニック氏はひかり山レジャーランドの設計者である。この辺りはもともとヒカリジカの生息地だった。古来より肉が美味、かつ食べると内部から肌が光り輝くように美しくなると信じられ、乱獲により絶滅寸前。あとを絶たない密猟者を遠ざけるため、アトラクションは森の合間に生態系を守る砦のように配置されている。
  シカニック氏のメカニックはシニカルでコミカル。よく整備されたアトラクションは密猟者を罠にかける。来園者が歓声を上げるのはもちろんのこと。
  たとえば一人乗り用ブランコ。冬には本物の雪の天蓋からぶら下がったように見える小さな座板の上で、たった一人。客は孤独な思いに胸を絞めつけられるかもしれない。一面に広がる人工濃霧がムードを高め、キリキリと凍える軋みを上げながらワイヤーが撓んで、ブランコが大きく弧を描く。雪原すれすれをかすめる時に、雪煙が立つ。
  数匹のヒカリジカが客の頭上を飛び越えるのだ。
  雪の光に、まるでほのかに透けるようにカリジカの肌が照り映えて、忘れられない一瞬となる。何かがぶち当たる感触があってもそれは密猟者だ。気にしないでいい。
  ヒカリジカに魅せられるあまり、冬だというのに忍び込む密猟者もいるのだった。だが心配はいらない。
  不審者はたちまち迷宮に入り込む。アトラクションの方ではないよ。罠用に仕掛けられた小さな湿地だ。歩いても歩いても行きつく先はなく、茂みの外には出られない。リアル尾瀬in青木ケ原。その内に水が深くなる。溺れかかって泳いでいる間にシカニック氏のケミカルなテクニックが記憶の雪玉を越境者の中で反転させる。
  雪原に放り出された密猟者は冬を夏だと思い込み、服を脱いで凍死しかかっているという落ち。ブランコに頭をどつかれて目を覚ませば、あわてて逃げ出す他はない。
  同じブランコが夏にはヒカリジカを追う密猟者の首に輪にかけて、見せしめに空高く吊り上げるハンギングロープとなる。
  この時期、シカニック氏に慈悲はない。ヒカリジカが子育てをしているのだ。
  ひかり山レジャーランドの夏は密猟者の処刑場だ。入道雲を背景に、破れた筵旗のような亡骸が陽を浴びて、あちこちで、爽やかな風に揺れている。 

              (不狼児)

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ひかり町ガイドブック 「空飛ぶ円盤」

【おみやげ】
     「ふたごドーナッツ」 
【ものがたり】
     「当たり付き」     
              (砂場)

 

      「空飛ぶ円盤」
  ドーナツの穴を通して景色を見ると時々、空飛ぶ円盤が横切ることがある。ドーナツを外すと見えない。穴の中では糖分と油分の干渉が円盤の偏光防御を無効化し、カモフラージュを解くのだろう。この宇宙はドーナツをいくつも重ねたような構造をしている。一段また一段、ドーナツが連なって管になり管の両端がくっついてまたドーナツになる。中空のドーナツが無数につながってできた宇宙は、内部の空洞を通ってドーナツからドーナツへ移動することができる。
  空飛ぶ円盤は、自分の前世を見物にきた未来人が乗るタイムマシンだ。
  円盤がこっちへ向かって飛んでくる。
  ぐんぐん大きくなる丸窓から覗く赤ん坊のようなすべすべお肌とまんまるな瞳の未来人は、後の世のあなたかもしれない。

              (不狼児)

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2012年02月18日

ひかり町ガイドブック 「アマザキ革命」

【学ぶ】
      「光板製造工場」
【ものがたり】
      「革命前夜」
              (白縫いさや)
            *小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載(ここにも)


【ものがたり】

      「アマザキ革命」
  ひかり町第三小学校二年一組、アマザキ・ジュンイチロウはある日、明かりをとるために町中に張り巡らした安物の光板にハーブのスプレーをかけると特殊な光が発生することに気づいた。ハーブの種類によって光も変わる。薄荷の光を浴びると、道理でスースーすると思ったら、身につけたすべてのものが透明になっていた。こうなると服を着ている意味がなくなり、隠し事ができなくなる。給食センターで毒を盛って小学生を殺そうとしても、隠すことができないどころか、透明になったものは存在自体が効力を失うので、毒は毒でなくなって、透明な何ものかがスープに溶けるだけだ。ふしぎと人体は透過しないので体内に隠せば別だが。腹の黒いのはどうしようもない。ジャスミンの光だとあらゆる物体がぶよぶよに、オレガノでは宙に浮くほど軽くなり、セイジではごく薄く皮が剥ける。たちまち、すっぽりと剥けた彼の外皮は自分がもう一人いるみたいに完全な形だ。イラン・イランでは目が見えなくなる。これは危ない。あわてて噴霧したのは、たぶんタイムだったと思うが、光を受けると吸血鬼になる。懐かしい光に濾過された血の味は、母の胎内より好きな世界の太初を思い出させた。ラベンダーは失敗だった。光が当たったとたんに、体毛がズンズン伸びる。髪の毛も眉毛も鼻毛も伸び放題。うぶ毛はなんともならないのがおかしい。ジュンイチロウはあっという間に後ろから見たら女の子、前から見るとインドの修行僧になってしまった。これじゃ困るとハーブを変えてやってみたが、サフランだとあたたかい光が、ライムでは痛い光が降りそそぐだけで、もってきた種類も残り少ない。あるものを試したら、やっと元に戻った。光で起きた変化を全部なかったことにする光らしい。でもそれが何だったのかは秘密。せっかく現実を変えられるのに、元に戻すなんて馬鹿らしい。
  光でできた板は光を出すのは同じだが放つ光は触媒次第だ。色を変えるならまだしも、破壊光線を出そうと考える奴もいるだろう。発明者は安全装置として光板に悪意の匂いを嗅ぎとる分子構造を配置していた。悪意の波動が分子を揺らすと、光還元反応を妨害する。それで想定外の光が発散したのだ。
  町中にスプレーする必要はなかった。ハーブを浴びた嗅覚分子は隣接する分子から分子へ反応を連鎖させる。昨日いろいろ試しただけで十分だった。光板はそこいら中でまだらに光を発し、熱くなったり寒くなったり、裸になったり毛が伸びたりで大混乱。それもまた時々思い出したようにぱっと元に戻るから、原因を究明することもできず、余計に始末が悪い。店もあけられず、自動車も走れず、経済は停滞し、貨幣は価値を失った。人はそれをひかり町アマザキ革命と呼んだ。

              (不狼児)

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2012年02月17日

ひかり町ガイドブック 「キスをする前に」

【自然】
      「羽衣海岸」
【ものがたり】
      「しあわせの星」
              (タキガワ)
            *小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載


【ものがたり】

      「キスをする前に」
  天女の魅力にたえきれず、月は砕け散った。泣きながら天女が拾った月の破片は土曜日の海の味がする。

              (不狼児)

 

【ものがたり】

      「泳ぐ空」
  セキレイ、チドリ、ヤドカリも蟹も、潮が満ちてくるとすべては水の中に沈む。いつもは最後まで満ちる前に引いてゆくのでまだ地上は何処かに残されているけれど、ある日、海は退くことを忘れて際限なく突き進むだろう。
  砂浜に坐ってぼんやりそんなことを考えていると、突然、岩場に現れた少年が手を振った。彼が私の幼い息子であってもおかしくない。多分、事実そうなのだろう。
  死にゆく者であることの罪の意識は消しがたい。どうせ死んでしまうので、死んだ後にもまだ残る世界に対して、我々はいつもあまりにも無責任すぎる。
  ひたひたと水が意識に満ちてくると、細かに砕けた月の欠片が惹き起こす不安定な潮の干満が、今この瞬間にも波を高く持ち上げて岩場に襲いかかるのではないか、そう考えて私は軽く身構えずにはいられなかった。

              (不狼児)


          *参照「怪談銀行」(不狼児)                          


【ものがたり】

      「泳ぐ空」
  そもそも「泳ぐ空」は回帰する。永劫回帰とは「よし、そうだ。もう一度」という瞬間の回帰である。一度敗北した不狼児は何度でも、また敗れ去るのである。天女は花を撒き散らし、余はそのつど血まみれで地面に倒れ伏す。劫の敗北がリサイクルされ、「泳ぐ空」はどこにでも現れる。またもや余は失墜する。「とまれ、この時は美しい」余が口にする其の度に。イカロスのように墜落する。ツァラトゥストラのように没落する。月のように砕け散る。劫の人生が繰り返され、悟りはまだかという問いは、姿形を変えて現れる。救いはあるのか。天国は、涅槃はどこだ。「よし、そうだ。もう一度」余は呟く。そして熟れた果実のように地に落ちる。救済はなく、天国はない。すべては同じまま、何度でも繰り返す。永劫回帰の果てもなく、劫の空が重なって、巡る時が来ればいずれまた、空は泳ぐのである。

              (不狼児)
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2012年02月16日

ひかり町ガイドブック 「光の梯子」

【あそぶ】
      「ひかりが丘」
【ものがたり】
      「切り絵」
              (砂場)

 

【ものがたり】

  ひかりが丘にはときどき靴だけサッカー少年が遊んでいます。靴だけしか見えないので、ほんとうにいるのだかわかりません。よそ見をして、ボールを奪われないように。 

            (不狼児)



【ものがたり】

  芝生に寝そべって本を読んでいると、メガネ女子が近づいてきます。メガネだけしか見えないので、覗いているのが女子かどうかは知りません。そいう名前なのです。

            (不狼児)


【ものがたり】

      「光の梯子」
  ひかりが丘のまんなかに光の梯子が立っています。どこまでもどこまでもまっすぐ上に向かって伸びる金色に輝く梯子は、天国まで届いているという話です。

          *

  天に登る梯子の途中で、風に乗って雲の間から降ってくる花を見た。
  かすれた色の花々に触れた。

  もしかして、それは濡れていた?

  ――指が燃えていたよ。

          *

  ひかり町では夢は子どもたちだけのコミュニティです。大人は入り込めない。お伽話は眠りの中で子どもたち自身が話します。絵本はいらない。

              (不狼児)

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ひかり町ガイドブック 「奇計」

【地場産業】

      「南斜面の牛畑」
  ひかり町では牧畜業が盛んです。牛畑には植物性の牛が頭を出して、のんびり光合成をしています。雨が少なく、日照時間の多いこの土地は牛の肥育に最適です。時おりモーモー鳴きながら、肥料を反芻してよく太ります。乳牛は乳房が頭についています。牛が首を振るとブルブルゆれ、小さなツノが何本も生えた、大きなふうせんを載せているようです。地中の下半身から花茎を伸ばし、子牛は頭上に実るので、酪農家にとっても不便はありません。カラスやイノシシの被害にあわないように牛畑にはたいてい数匹の人面犬が飼われています。牛乳が好きでこっそり乳を吸うこともありますが、肥料を喉につまらせた牛を舐めて介抱したりもするので、大目に見られているのです。

【ものがたり】

      「奇計」
  ミノタウロスは迷宮で眠っている。
「今や遅し」
  その夢の中に音もなく歩み寄る、人の顔をした牛が言った。
「おまえはテーベから来る生贄の中の一人の少年の手によって屠られるだろう。愛する妹アリアドーネの裏切りのせいでな。テーセウスはおまえの許にたどり着き、金の糸を手繰って難なく迷宮から脱け出すだろう。おまえには未来永劫無縁な、光射す世界へ――生きるために!」
  暗い穴倉の冷たく動かぬ石壁で背中を支えて、ミノタウロスは眠り続ける。
  人の欲望が俺の体を切り刻む。
  俺は死ぬ。
  だが総てを黒く染めるのは、俺の望みではない。
  やがてミノタウロスは静かに応えた。
「おまえの顔は人の顔か。それでそんなによく喋るのだな。確かに俺は死ぬ。首を落とされて傷口から盛大に血を噴きながら、どう、とこの場に倒れるだろう。しかし俺の血に濡れた迷宮は大地の根を汚し、大地はその草を食む全世界の牛をこの血で染めて、肉を喰った、邪な考えを抱く人間どもの脳みそを片っ端から真っ白に麻痺させるだろう。足腰も立たず、涎を垂れ流し、夫は妻の、母は子の、見分けもつかず、屈辱と糞尿にまみれ、考える力を失い、叶えられなかった欲望の恨み辛みを果てしなくぶつぶつ呟きながら、哀れな末期を迎えるだろう。人間よ。白き地獄のいまわのきわに、せめて闇の底で哂うミノタウロスの声を聞くがいい」
  夢の中で、最後に人の顔をした牛がこう囁いた気がする。
  忘るるな。
  件のこと口外するべからず。
  さすれば予言と共に、おまえの呪いも成就されよう。
「今こそ、牛を喰らう全ての者に災いあれ」

            (不狼児)

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ひかり町ガイドブック 「ビールの指輪」

【アトラクション】
      「世界最小の環状線」
【ものがたり】
      「無題」
              (倉田タカシ)
            *小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載


【ものがたり】

      「ビールの指輪」
  小さなルビーの指輪を逆さにすると際限なく深紅のビールが注がれる。白いビールが飲みたければ、雪の女王の瞳の色を文字盤のガラスに映す時計台の時鐘に合わせて傾けると、ジョッキの中に溢れだす。黒いビールが飲みたければ憎き仇を思えばいい。緑のビールが飲みたくなったら、緑の小鬼にお願いすれば木漏れ陽がささやくように溢れてくる。だが本物の黄金のビールが飲みたいなら、自分の脚で山に登って、頂上の周囲を一巡りして、日没を待て。

              (不狼児)

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2012年02月12日

ひかり町ガイドブック 「失われた本を求めて」

【こもれび情報】
      「河北書店前ポスト」
【ものがたり】
      「投函」
                (砂場)
              *小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載


【ものがたり】

      「失われた本を求めて」
  書店に入ると、見かけは何のへんてつもない本棚の列。その一隅に『ひかり町ブックガイド』は置いてある。
  著者は藤原不比等。河北書店の店主で、自らも活版印刷で本を出すという奇人だ。
『ひかり町ブックガイド』にはなくした当人すら知らない失われた本の題名と在処、再び取り戻す方法が書かれている。
  タイトル頁をめくると、まずはひかり町の地図が目に入る。簡単な全体図だがそこかしこに踊る、つながり惑わし訴える、不思議な記号に満ちている。
  目次を見てどれが自分の本か探しましょう。すぐには見つからなくても、パラパラ頁をめくっていればその内に、これだと思える本に行き当たる。よく見れば装幀といい、紹介されている内容といい、いつか読んだはずの記憶が蘇ってくるだろう。
  頁を繰る手ももどかしくあなたは走りだす。それがひかり町の路地なのか、握りしめた本の中なのか、誰も知らない。列車に轢かれないように気をつけてという店員の注意にも耳を貸さず、あなたは走ってゆく。
  失われた本とあなたを隔てる線路はどんな隙間にも通っている。
  列車は不意に、轟音をたてて宿命の線路の上を全速力で駆けてくる。

              (不狼児)

posted by 不狼児 at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ひかり町ガイドブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする