2007年06月29日

『星新一 1001話をつくった人』最相葉月

 読了。
 面白かったけど、読んでいて楽しくはない。一人の人間がひたすら磨り減って死んでゆく暗澹たる話なので。 まあノンフィクションてのは多少なりともそんなものか。作家にはなりたくないな……というのが実感。

 正直そんなにも評価が欲しかったのかというのが意外なところ。
 価値のヒエラルキーはもっと絶対的なもので、厳然として、逃れようもなく存在するもののような気がするが…… やはり自分で自作の価値にある程度見切りをつけてしまうと、他人の評価や売り上げという現実的な結果を求めるようになるのだろうか。

 あと書ける短編の数は800ぐらいが限度らしいから、これからは乱作しないように気をつけることにしよう。 一篇仕上げるごとにやけに消耗すると思ったら、短いのを書く作業って結構きついものだったのね。

 

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2006年12月28日

怪奇な話 吉田健一

 今年読んだ本の中では一番の収穫。
 奇譚を奇譚として語らないこの方法は非常に面白い。

 テキストエディタが落ちた……長々と書いた感想が全部消えた。さすがにもう一度書く気はしないので、今年はこれでおしまい。

 吉田健一は初めて読んだ。これまでこの人の本を一度も読んだことがなかった自分にも恐れ入った。吉田健一と言えば酒と食べ物の話。いくらその手の話題が嫌いだからって。でも、まー損をしたのか得をしたのかはよくわからない。

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2006年12月15日

『ある婦人の肖像』メモ(続)

 サド侯爵の小説よりも救いのない、最も邪悪なポルノグラフィー。
 力の強いものが、正しくても弱いものを貪りつくし、蹂躙する。もっとも梶原一騎原作のマンガとはちがって肉体的な暴力ではなく、経済力だが。

 原理的にはデュシャンの「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」と同じ構造をしている。独身者の欲望と花嫁は平行運動して、決して触れあうことはない。もっともその裏で「誘惑者」によって既に花嫁は裸にされ、「処女の花は踏みにじられて」いるのだが、明示されない。「そのこと」はありふれたポルノグラフィーとちがってわずかに罅と埃の堆積の隙間から覗けるだけだ。そ知らぬ顔で、悪循環は続く。

 女主人公が最後になぜローマ(悪の巣窟)に帰ってゆくのか。当然そうでなければならない。花は踏みにじられても相変わらず美しいままだ(そもそも破壊できるようなものだったら、破壊しようとは思わないだろう)。ジュスティーヌが苦難を避けるなんて考えられない。

 ヘンリー・ジェイムズとか、ラドヤード・キップリングのような、人間憎悪の文学の書き手たちにとっては、怪談は最も端的な人間憎悪の形式でしかないように思える。


 

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2006年11月17日

ある婦人の肖像 ヘンリー・ジェイムズ 岩波文庫

 今まで読んだ最も美しい小説(やや誇張)。美しいヒロイン(映画でニコール・キッドマンが演じたからではない。映画と言えばやっぱり『ピースメーカー』は最高だ。全然関係ないけど)。
 筋立ては、この作家にしては際立って不快な展開と言うほどではない。
 鬱屈した情熱と控えめな奔放さが、極端な描写の少なさと反比例して過剰な心理的説明があいまって、登場人物たちを特殊な生気――異常に静かな活気とでも表現すべきもので満たしている。
 にもかかわらず、思わずその偽善的な生活形態を忘れさせる天国的な情緒を引き裂いてまで――お菊さんが皿を数えずにはいられないように、ヘンリー・ジェイムズは全頁に亘って、間断なく金勘定に励んでいる。それは異様なほど執拗で、ショッピングセンターを埋めつくしたロメロのゾンビよりも醜く、忌まわしい。言うに言われぬ不愉快さ。
 作者にしても好き好んで金勘定をしているわけではないだろうが、逃れられない金勘定は小説のこの世ならぬ美しさを強烈な醜さで裏打ちしている。
 ナボコフに嫌われるわけだ。描写の不正確さがどうの、と言う問題ではないだろう。美的に受けつけなかったのだ。

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2006年06月30日

『姑獲鳥の夏』京極夏彦

 面白かった。ところどころ勿体付けて曳き回すところはあるけれども、さほど苦痛ではない。必要にして十分面白いけれど、膨大な無駄話が全部伏線になっていることと、社会人としての良識にあふれすぎているところがやや物足らない。本筋重視の小説を読むとどうしても枝葉末節を飛ばしてしまう癖があるのでやむをえない、と言うか本の側の問題ではないのだろう。感情移入できる登場人物が「内藤」「院長」「原澤」ぐらいなのも。
 それにしても最近のミステリーの核、と言うか起源は、少女性愛者が多くないか? 犯罪の中の犯罪と言うと性的なものにたどり着くのだろうか。宮崎勤の影響の大きさを実感する。
 これを映画にしても面白くなるだろうとは想像できない。もっぱら言語によるトリック、と言うかまやかし(幻惑、騙し絵、あるいは幻術、何と言ってもいい)によって成り立っている面白さだと思うから。

 長い物を書くにはこういうふうに積み重ねないと不可能だというのが良くわかる。


 

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2006年06月26日

『永遠の森 博物館惑星』管浩江

 のっけからアフロディーテといういとも美しい名に対しての文句たらたら、続くコメントの知能程度の低さ(と言うか、下品さ)にはうんざりするが、まあ図書館や博物館で上役まで出世する人間のタイプはこんなものだろうと言うことで(下品でないお役所なんて上品な組事務所と同じ撞着語法だから)我慢して読み進めれば小気味よいB級アクション映画のようで楽しい。
 B級アクションの特徴は火だるま人間と車の空中回転が多すぎること、最大の共通点は主人公の頭が悪いことだ。的を外したことをやってくれないと話が展開しないから仕方がない。そういえばここに描かれた博物館惑星はその種の映画に出てくるベトナムの捕虜収容所とそっくりだ。お決まりの拷問、水攻め、電気ショック、既知なるものの総棚ざらえ。
 もっとも殴ったり蹴ったり爆発したりを小説でやってもアクションにはならないので、ここでは論理構成が代わりを務めてアクションする。ふつう論理構成を自己陶酔的に延々と引き伸ばされて披瀝されるとうんざりしてしまうものだが、作者はB級アクションのテンポで動くサラリ−マン小説に成型して提示するので退屈しない。
 いたるところで物凄く気になるサラリ−マン小説風のガサツさも、クライマッククスでの反転のため(伏線、と言う言葉は大きらいなので使わない)と思えば非常に効果的だった。

 

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2006年06月23日

『白夜行』東野圭吾

 ホントよくできたメロドラマだ。煽りだけでは泣けないという事実を、控えめな筆致が証明している。描写を最小限にとどめ、物と事を積み重ね、まとめあげる腕前は鮮やかだ。視点人物の設定が巧い。良識的な眼差しを通して(つまり適正な距離を保って)描かれる犯罪行為に、読者は必要以上の反発を抱くことなく、安心して泣ける。
 視点人物を切り替えることで、不自然な印象を与えずに出来すぎている構造を隠し、風俗をちりばめ、しかも書割にのみ使うことで、リアリティを保つ。

 やはり文章の読みやすさが読者に疑念を抱かせないツボなのかもしれない。


 

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2006年06月18日

『酒仙』南条竹則

 全篇どうでもいい事ばかり。酒や食べ物に関する薀蓄も興味のない読者にとっては無駄話でしかない。飛ばし読みしても全然さしつかえない。笑いもお馬鹿だ。と言う訳で、とても楽しめた。なんか久々に一冊読みきった気がする。

 ただしひたすら酒と食べ物の話というのはどうかな。読んでも腹は膨れないし、知識の綾織は楽しいが、酔っぱらうことはできない。李白とルバイヤートで〆るクライマックスは卑怯なところがいたく面白い。ただしやっぱり食べ物が食べ物でなくなり、酒が酒でなくなる話でないと、世界が世界でなくなる瞬間にしか、僕は酔えない。

 

 

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2006年01月03日

『おらが春』小林一茶

 読了。
 『名著全集俳文俳句集』所収 うわづら文庫
                                                  ↑ここは良い。凄くたくさんの日本の古典が置いてある。

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2005年12月29日

『魅せられた旅人』レスコフ 岩波文庫

 徹頭徹尾まったく成長しない男の波乱万丈の遍歴。まいどまいど主人公が成長したり、取り返しのつかない出来事が、まるで特別な何か「俺様マークの付いた決定的事件」のように起こったりする物語に飽き飽きした読者向き。何が起きても、何を体験しても、けっきょく人間は変わりようがないのだとしみじみと納得するような話。
 エピソードはどれも短く、無理にひっぱらないので、展開は小気味よい。率直で野蛮な語り口が、心理の綾を追って読者に感情移入を強いることもない。
 これがストーリーテイリングと言うのならストーリーも悪くない。個人的にはこっちの方が好きだけど、今はこれをストーリーテイリングとは言わないのではなかろうか。何て言うか、単なるエピソードの羅列で、それぞれのエピソードが本筋に奉仕していないと、就労規則を守ってないから減給、みたいな。

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2005年12月26日

『動詞1・2』高橋睦郎 思潮社

 この本の圧倒的な面白さを支えているのは、個々の断章の短さであると同時に、千篇一律とも見える繰り返し魅力だろう。根源的で原始的な身振り。だからこそ何度でも読み返せるのだろう。

 見かけは断片的だが、超短編とはひどくかけ離れたものかもしれない。超短編と違って決して新しい物語を作ろうとはしない。普遍的なある一つのものを多層多重的に描き出そうとしているように思える。

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2005年12月21日

『平賀源内捕物帳』久生十蘭 朝日文庫

 これは凄い! 傑作! 平賀源内にふさわしい奇想と、鮮やかな江戸のパノラマ。事件一つ一つが、今にも動き出しそうな登場人物のフィギアを置いた精巧なジオラマだ。作者はさまざまな角度から、それに独自の照明を当てて、あたかも動いているかのように照らし出して見せる。しかも動いて見えるのは人物ではなく街並の方なのだ。久生十蘭は最高の模型製作者だ。
 さすがにおしまいの方は息切れ気味。ジオラマがうまく組み上げられなくなって来て、潮時という感じ。それだけ例外的な傑作ということか。

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2005年12月18日

『アダムとイヴの日記』マーク・トウェイン 大久保博司訳 旺文社文庫

 小説はこうでなくちゃ。
 無垢な人間が徐々に文明化していさまをとぼけた調子で、特有のブラックな笑いを絡めてテンポよく、簡潔に描き出してくれる。ブラックと言ってもトウェインは根本的に人間否定の作家ではないので、一般読者にも安心だ。たとえばイヴの誕生はこんな具合。

 長い髪をしたこの新しい生きものは、まったく邪魔だ。いつもそこいらをうろつき回っては、後をつけてくる。こういうことはどうも気にいらない。連れなんていうものには慣れていないからだ。ほかの動物たちといっしょにいてくれれば助かるのに。……今日はくもり空。風は東。どうやら私たちは雨にあいそうだ。……私たち? はて、どこでこんな言葉をおぼえたのだろう? ……ああ、そうだ……あの新しい生きものが使っている言葉だ。

 202文字。完璧。
 「イヴの日記」の方はそれほどでもない。持続する日常の物語で、より小説らしい。男が書く女性一人称は、日頃女性陣に言い負かされているせいか、仇をとろうとするかのように必要以上に皮肉っぽいか、さもなくば反感を気づかれないようにやたらと生ぬるい。マーク・トウェインはさすがにうまくバランスをとっているが、このバランス感覚という奴がまた典型的にアメリカ小説的(清教徒的な、秩序から逸脱することへの拒否感)なので、まあ普通の小説だから、わざわざ読む必要もないという気もしないでもない。

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2005年12月17日

『岬』中上健次 文春文庫

 時間が惜しいので、全速力で読了……のはずが、すいません。ほんとは全部読んでません。あまりにもつまらないので、後半ぶっ飛ばしました。
 村上春樹、村上龍、高橋源一郎に続いての挫折。純文学は合わないわ。こっち方面を読むのは諦めた。以下簡単に感想など。

 顔だけでなく、中上健次の文学はオウム真理教によく似ている。偏差値の高い層を惹きつけずにはおかない愚鈍さ。もしかして今の純文学の根底に流れている、わざとつまらない話をするやり口の開祖なのか? アンディ・ウォーホールが商業化に成功した「ゴミを生産して芸術と命名する方式」の文学版? そうか。つまらないばかりでなく不愉快なところが中上健次の特徴で、それがとりわけ名高い理由なのだろう。

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2005年12月10日

『七つの夜』ボルヘス 野谷文昭訳

 読了。なんだか。ああそうですか、としか言えない話が多いような。
『神曲』は言語で読まないと、って、イタリア語なんかできねーよ。
 この微妙なツボの外し方は、たいこもちの匙加減に似ている。もっとも腹の立つ部分の隣りを突っつき、優越感をくすぐる箇所の真裏を刺激する。決着をつけないのが客寄せの極意。
 思うにボルヘスほど読者に「文学の外に出たい」という欲求を起こす本は他にはないかもしれない。ボルヘスの描く人間はしばしばあまりにも息苦しく、脱出への欲求はあまりにも激しいので、思わず歯を食いしばってしまうほどだ。

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2005年12月09日

『しずるさんと偏屈な死者たち』上遠野浩平

 安楽椅子探偵物は不可能を可能にするような奇想天外なオチを持ってきて欲しい。そうでないと物足りない。平凡な事実に終わるくらいだったら、謎解きなんかしない方がいい。そういう小説ではないことは知っているが、ないものねだりをせずにはいられない。
 動けない人間が主人公だからこそ、今ここにいる読者は、その場で世界が逆転するような物語を望むのではないかと思うのだが……
 日常にかえってこないことにはシリーズとして成り立たないから仕方がない。

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2005年11月26日

『ドラコニア綺譚集』澁澤龍彦

 読了。
 面白いのは定番部分。
 虚構に走るととたんに薄味になるので、イマイチ物足らない。

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2005年11月25日

『カフカ傑作短編集』長谷川四郎訳

 読了。
 言ってもどうしようもないことについての、長い長い愚痴。長編はもちろん、カフカの作品はどんな短い断片でも十分に長い。面白ければなんだっていい、とは言うものの、この違和感、苛立つような感覚はなんだろう。
 これらの話は本来はどの話も同じ長さであるはずだ。だって無限をいくつに切っても、それぞれの無限の大きさは同じだ。
 それが、たまたま長編であったり、ごく短い断片であったり、妙なぐあいに伸縮自在なお話になって転がっているので、変な感じがするのだろう。
 本当に面白いのか? と訊かれたら、ものによると答えるしかない。

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2005年11月18日

『李陵・山月記』中島敦

 確かによく出来ている。簡素で、磨き抜かれている分だけ、どの小説も結局は「耐え難い人生を耐えがたく描きだす」だけと言う印象を受ける。
 中島敦の小説が、ではなくすべての小説が、そう言うものだと感じられてしまう。
 プリズムに当たったは光が分解されるように、中島敦の作品を通して他の小説の構造が透けて見えるからかもしれない。

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2005年11月16日

るさんちまん第3号

 読了。
『螺旋道』ジェームズ・ハネカー
『紫縮緬のもえる町』泉涓太郎
『色の褪めた女』『手紙風呂』小山内薫
『ペシミズムの真相』エドガー・ソールタス
その他。

 集中して、短時間で、一気に読む……テンションをあげるにはいい方法だ、暇な時にやるなら。
 結局切り替えができず、ミスを連発して時間を無駄するのではやめた方がいい。

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