「器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を誑す、これを付喪神と号すといへり」『付喪神記』
「吸血鬼が眼醒めるとき……」『手記』ヘルシング教授
「さあ、くちづけを」『眠りの森の美女』
ハーモニカ (奏でる)
彼女の息が
僕の唇を鳴らす
彼女が息を吸うと
晴れた日の
遠い海嘯が聞こえる
彼女が僕を吹くと
かぐわしい
濡れた若葉の匂いがする
ふたりの恋が松脂のように苦いのは
いつか僕らが琥珀になって
ひとつの思い出を閉じ込めるから
中学校の教室。多数の机、椅子。黒板。
少女 (机に突っ伏したまま。眠っている)
少年 (ハーモニカを妬んで隠してしまう)
少女 (目覚める)
わたしの唇にふれたのはそよ風だったのかしら。
何かがさわって、目が醒めた。
でも、なんか、へん。
鉄の味……いいえ。若い血の味がする……
少年 (恥ずかしそうに俯いてしまう)
ガチャンとガラスの割れる音。
ハーモニカが窓から飛び降りたのだ。

