2012年04月11日

夜の森線 (リミックス)

「ほら。ここが僕のふるさとだ」
  彼は錆びた消火栓の裏のゴミの溜まった路肩を指して言った。
  雑居ビルの陰になった日も差さない路地の突き当り。湿ったコンクリートは黒ずんで、罅割れたモルタルのかけらも落ちていた。土埃にはガラスの粉も混じっている。
  成人式の一週間後、彼は私にふるさとを案内すると言った。
  ここがそうか。
  振り向くと高圧線の鉄塔が見える。
「母は僕を産んですぐに、あそこで首を吊ったんだ」
  近くに駅の変電所があるのだ。鉄塔は町外れから田んぼの中、道路ををはさみ、山肌を登り、延々と線を引いて連なっている。
「高圧線は母のふるさとまで続いている」
  二十年。過ぎたのだ。街は廃墟のように静かで人の気配もない。
  駅には塵が積もっている。

 

超短編のパトロン 第0 1/2回 投稿作。掲載。1300円。
サンプル作 「夜の森線」



posted by 不狼児 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 500文字の心臓 超短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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