幼い頃、僕は亀を飼っていた。
父は亀の甲羅を叩き割ったその手で僕の頭を優しく撫でた。
学校が早く退けた午後。
家に帰ると、五年前に死んだ祖母の布団を包丁で何度も刺している母の姿を見た。
母は赤ん坊を刻みキャベツで洗ったこともある。キャベツの上にいる赤ちゃんを姉が見つけて、何をしてるのか訊ねたら、洗っているのと答えたそうだ。あれはどこの子だったんだろうね、と姉は呟く。
僕が生まれた家は父が育った家で、柱には背の高さを測ったのではない傷が無数についている。
作文にそう書いたら、父にひどく怒られたのを思い出した。
春休み。姉が物置で首を吊った。
夕方、見たことのない女の人が腹の下に大事そうに何かを抱えて、家から出ていった。
母が病院で亡くなったのは先月のこと。
昨日。僕は死んだ。
両足が釘で道路に打ち付けられていることも知らず逃げることも出来ないまま車に轢かれたのだ。
今日は父の誕生日だ。
おめでとう。
超短編のパトロン 第0 1/2回 投稿作。掲載。500円。
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