教えていいものかどうか、迷う。
もう春は来ない。
凍りついた地面の上で照り返す陽の光が強烈なのは、今日が夏至だからだ。
子どもたちは残念がるだろう。氷原が解ける間もなく秋が訪れると、太陽は分厚い雲の 向こうで黒ずみ、昼間は僅かな薄暗がりの数時間に押し込められ、やがて暗闇に沈む。息を潜めて陽射しを恋焦がれているうちに、春がどんな季節だったのか、想い描くこともなくなった。
春は、来ない。
最後の春の訪れからいったい幾つ年を重ねたろうか。数える気力も失せた。
死にゆく世界の長い末期の溜息は春の思い出と共に消えてゆく。
子どもたちはもういない。
私はひとりだ。
第112回タイトル競作『告白』投稿作。
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