【文化施設】
「光の美術館」
【ものがたり】
「投影」
(加楽幽明)
*小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載
【文化施設】
「光の美術館II」
光の美術館は誘蛾灯だ。我こそはと自らを頼む学芸員が、影と光の芸術に惹き寄せられるように集まってくる。学芸員は何でも言葉にしたいのだ。だから壁もガラスも防音防水で光だろうと影だろうと、擦過音一つ、外に漏れる気遣いはない。
隣には本物の絵画と彫刻の美術館があって、入場者数ははるかに多い。静かに鑑賞できるととても人気が高い。
名前もなくどこにも紹介されないのは、学芸員をダミーの方に向かわせるためである。
【文化施設】
「空中浮遊美術館」
誰にも触られず、目にも止まらないように、空中に浮遊する美術館。梯子を掛けようとしても届かない。絶対隔離は人類に蔓延する愚かしさから美術品を守るためである。ナチの欲望と商業主義の陰謀から美術品を守りおおせた関係者も、今度ばかりは逃れられない、と一時は覚悟したそうだ。
これ以上の危機はもうあるまい。
いずれ大洪水が地表を覆い尽くすほど高まれば、箱舟に乗った誰かが人類の遺産を回収しにいく。
【ものがたり】
「絵画泥棒」
学芸員は美術館の寄生虫だ。鑑賞は目を閉じて思い浮かべるものだのに、学芸員は作品を端から蝕み蝕み言葉の滓にして吐き出してゆく。絵画や彫刻はいつしか空洞化し、幽霊に。あとには僅かな木屑しか残らない。なんて旺盛な食欲! 一人で数十万匹におよぶ白蟻の共同体。学芸員が作品に遺した虚構の判読。目を閉じれば思い浮かぶ情景を、尽きることない戯言が完膚なきまでに破壊する。
今夜も老いた泥棒紳士は美術館から一枚の絵を救い出す。
(不狼児)