2012年02月26日

ひかり町ガイドブック 「人魚売り」

【自然】
      「人魚岩」
【ものがたり】
      「人魚の休日」 
              (オギ)


【ものがたり】

      「人魚売り」
「にんぎょー、エー、にんぎょーォオー」
  人魚売りのおじさんが声を枯らして叫んでいる。
「どうせインチキだよ」
  そうは言うけど。
  夏の昼下がり。路地はうだるような暑さで、日陰に入っても汗はなかなかとまらない。僕はおじさんを呼びとめた。
「エイらっしゃい」
  天秤棒の両端にぶら下がってる馬鹿でかい桶の寸法は半端じゃない。
  桶の中には若い人魚が体を丸めて収まっている。
  蓋をあけると、顔を上げた。
「あっ」
  と思うと人魚は僕の手を捕まえて桶の中に引き込んだ。桶の水は浅いはずなのに、蓋がしまっても中は明るく、水面は広い。足がつかないのに浮いていられるのは、人魚が支えてくれるからだろう。
「お願いがあるの」
  僕は人魚をかついで天狗岩を登った。
  天狗岩は岬で一番高く、海の上に突き出している。四方は海鳥が巣をかけるような断崖だ。
  暑い。かつがれた人魚も暑いのだろう。人魚の汗は清澄な海水のようだ。霧となって漂って、僕の額を涼しくする。
  海はいつになく青い。波は静かで、水平線までわずかな白波しか見えない。日差しは強烈だ。
  ようやく頂上に達して一息。
  肩の上では人魚が身を乗り出す。
「ああいい眺め」
天狗岩のてっぺんから、人魚はくるくると回転しながら尾を振って、はるか下方の海に向かって飛び込んだ。
「ありがとう」
  海辺にはもう夕方の涼しい風が吹いてくる。

              (不狼児)



posted by 不狼児 at 22:33| Comment(4) | TrackBack(0) | ひかり町ガイドブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
図らずも、一行で吹き出してしまいました。
このアイディアは無かったわ・・・
Posted by 空虹桜 at 2012年02月26日 23:28
よかった。話がまたワンパターンになってきそうで気にしていたのですが、かと言ってどうにもならず。
一箇所でも当たり所があれば。何よりです。
Posted by 不狼児 at 2012年02月27日 22:00
人魚になんともいえないソリッド感があって素敵です。汗、いいなぁ。
全然ワンパターンになりそうに感じませんよ?!(むしろそれは私です。もはや開きなおってますが)
感想下手なのでなかなかコメントいたしませんが、不狼児さんの作品は万華鏡のようで何度読んでも楽しいです。
Posted by オギ at 2012年02月29日 16:27
ありがとうございます。それならいいのですが。

感想はいいのです。読んで頂ければ十分感謝です。無理に何か言おうとすると読むのまで辛くなってしまいますもん。私も好きなものはなるべく黙って味わいたい方なので。
何かあればお気軽にどうぞってことで。
Posted by 不狼児 at 2012年02月29日 22:10
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