2012年02月23日

ひかり町ガイドブック 「禁猟区の蜜月」

【あそぶ】
      「リアル・スノードーム」
【ものがたり】
      「サマー・ノイズ」
              (空虹桜)
            *小冊子『ひかり町ガイドブック』に掲載

 

【ものがたり】

      「禁猟区の蜜月」
  ブランコ・シカニック氏はひかり山レジャーランドの設計者である。この辺りはもともとヒカリジカの生息地だった。古来より肉が美味、かつ食べると内部から肌が光り輝くように美しくなると信じられ、乱獲により絶滅寸前。あとを絶たない密猟者を遠ざけるため、アトラクションは森の合間に生態系を守る砦のように配置されている。
  シカニック氏のメカニックはシニカルでコミカル。よく整備されたアトラクションは密猟者を罠にかける。来園者が歓声を上げるのはもちろんのこと。
  たとえば一人乗り用ブランコ。冬には本物の雪の天蓋からぶら下がったように見える小さな座板の上で、たった一人。客は孤独な思いに胸を絞めつけられるかもしれない。一面に広がる人工濃霧がムードを高め、キリキリと凍える軋みを上げながらワイヤーが撓んで、ブランコが大きく弧を描く。雪原すれすれをかすめる時に、雪煙が立つ。
  数匹のヒカリジカが客の頭上を飛び越えるのだ。
  雪の光に、まるでほのかに透けるようにカリジカの肌が照り映えて、忘れられない一瞬となる。何かがぶち当たる感触があってもそれは密猟者だ。気にしないでいい。
  ヒカリジカに魅せられるあまり、冬だというのに忍び込む密猟者もいるのだった。だが心配はいらない。
  不審者はたちまち迷宮に入り込む。アトラクションの方ではないよ。罠用に仕掛けられた小さな湿地だ。歩いても歩いても行きつく先はなく、茂みの外には出られない。リアル尾瀬in青木ケ原。その内に水が深くなる。溺れかかって泳いでいる間にシカニック氏のケミカルなテクニックが記憶の雪玉を越境者の中で反転させる。
  雪原に放り出された密猟者は冬を夏だと思い込み、服を脱いで凍死しかかっているという落ち。ブランコに頭をどつかれて目を覚ませば、あわてて逃げ出す他はない。
  同じブランコが夏にはヒカリジカを追う密猟者の首に輪にかけて、見せしめに空高く吊り上げるハンギングロープとなる。
  この時期、シカニック氏に慈悲はない。ヒカリジカが子育てをしているのだ。
  ひかり山レジャーランドの夏は密猟者の処刑場だ。入道雲を背景に、破れた筵旗のような亡骸が陽を浴びて、あちこちで、爽やかな風に揺れている。 

              (不狼児)



posted by 不狼児 at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ひかり町ガイドブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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