2012年02月05日

ひかり町ガイドブック 「明ける黄昏」

【名所旧跡】 
      「ひかりの門」
【ものがたり】
      「暮れる朝」 
              (空虹桜)


【ものがたり】

      「明ける黄昏」
「後家女郎蜘蛛じゃ」
  長老が教えてくれた。
  川向こうの巨石群に夏至の遅い日没の光が差すと、背景の木立はさらに暗くなった。ぶくぶくと泡立つように川面が揺れ、黄色と黒の縞模様の、蜘蛛というよりアメフラシかナマコに見える生き物が膨らみ縮み巨体を引きずって、遺跡の岸に這い上る。日没の光と競うよう、あわてて巨石にのしかかると、ビクビクと全身をふるわせ、失われし雲丹坊主との懐かしき日々、数万の棘の愛撫を想い、紫の丹田放射をまざまざと感じて、夏至の光を取り込んだ疣だらけの縞肌をいっそうまだらに明滅させる。
  後家女郎蜘蛛が秘めた触手を虚空に伸ばすと、環状列石の上空に本物の「ひかりの門」が姿を現す。
  公園にどよめきが広がる。
  歓声にも聞こえるため息が、主に地元民の口をつく。
  住民には同じ獣の血が流れている。イベントがその肌に刺青のように浮き立たせる縄文は、宝の地図か暗号か――宇宙を渡る船の民、それぞれが持つ文様が連動し、やがて星間連絡の信号を送る結晶体に成長して、同胞をふたたび故郷に導くのか。
  群衆ともども腕ふりかざし、
  うぅあぁー、うぁらぐゎー。
  まだ足りない。
  らじゃぁー、ぃやじゃぁー。
  遠く幾つもの異次元を隔てた窯変宇宙のさえずりが、獣人神楽を盛りあげる。「門」から溢れる細い細い光の束が、巨石を巡って空に差し、森を射抜いて、木々は暴風に煽られたように激しく揺れた。
  黄昏は跡形も残さず消え、ロメジュリが互に歌う永遠と、絶望は闇に溶け、午後十時。悲しげな咆哮が響きわたる中、いまだ「ひかりの門」が開くことはない。

              (不狼児)



posted by 不狼児 at 21:50| Comment(2) | TrackBack(0) | ひかり町ガイドブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うひゃひゃ。
これ、いいですね。
設定後付けだった作者には思いつけないけれど、こっちのが正当な気がする。
Posted by 空虹桜 at 2012年02月06日 23:59
ありがとでっす。
環状列石に縄文とか、こんな美味しいネタを利用しない手はないと思って。

人の話につなぐって燃えるなあ。
文体や佇まいを生かしつつ、ずらしつつ、と言う所が。
そのぶん力が入りすぎて長くなるのが難点ですが。
Posted by 不狼児 at 2012年02月07日 20:14
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