2012年02月04日

ひかり町ガイドブック 「死後の一服」

【あそぶ】

      「アダルトビデオ撮影所」
  角のタバコ屋の斜向かいに建つ瀟洒なスタジオ。入場は無料。巨大な防音ガラスごしに誰でも撮影を見学できる。成人であれば出演も可。撮影されたフィルムはプローモーションで上映されることもある。室内で、あるいは野外で。寛いで、心行くまで大人の楽しみを満喫できる場所である。腰掛けるのも寝そべるのも自由。葉巻でも紙巻でも水煙管でもお好きなものをどうぞ。いかに美味しそうに燻らせるか。心身のリラックスが生む稀なる波動が紫煙を七色に輝かせたという伝説のスモーカー、昭和初期にハリウッドでも活躍した(それよりも上野・寛永寺での刃傷沙汰、三度にわたる決闘騒ぎで有名な)元俳優のジョー・キマタこと木俣善三が戦後、この町に移り住んでヨガの呼吸法を元に編み出したという、時間停止爆煙喫を使うもよし。それぞれの方法で、至福の境地を目指すべし。

【ものがたり】

      「死後の一服」
  いつも親としての思考が最も愚劣だ。愚かしく邪な人類を種属として存続させようとするのだから当然だが、自己中心的で、傲慢で、恥知らず。あつかましさは限度を越える。火遊びで子供を亡くした親は、すべての責任を簡単に火がつく道具になすりつけ、百円ライターの規制強化を求める。そうした他をかえりみない思い込みの強さが我が子にストレスを与え、火遊びに追い込むのだとは考えようともしない。火遊びに失敗して死んだ子供は死んでよかったのだ。成長して放火犯にならずにすんだのだから。むしろ親たちを刑務所にぶち込むべきだったろう。幼児が火をつけにくいとは言うも愚かな、力のない年寄りや障害者には使えない差別的な道具を強制して、他人の不自由で自分の悲しみと罪悪感を紛らすような、卑劣な親を。使えない百円ライターは道具ではない。不具だ。悪法は法ではない。犯罪だ――とゾンビは言った。――人間は下流に溜まった腐った汚水だ。
  タバコ屋の店主を殺してようやくありついた貴重な紙巻きに、さて火をつけようとしたとたん、指がぼろりと砕けて落ちた。腐った指にはバネが硬すぎて火がつかない。残った指は親指も、人差し指も、中指も、右手左手のどの指も次々と、もげて、落ちて、なくなった。結局火はつけられなかった。
  やっとこさ、狭苦しい墓穴を抜けだしたと言うのに。念願の一服を味わい損なったゾンビは生者の世界を呪った。
  火遊びで我が子を亡くした親たちにさらなる不幸よ、降りかかれ! 地震と津波と放射能に襲われて、未来永劫呪われろ!
  経済産業省の役人に子供がいたら、マッチを買い与えて、これならすぐに火がつくよ、と教えてあげよう。
  誰か奴らの家に火をかけろ。マッチが擦れないなら、タンクローリーを奪って突っ込め! 壁と天井と家具と衣服と奴らの肉の焦げる煙を吸い込んで、失われたこの上ない一服の代りとしよう。

            (不狼児)



posted by 不狼児 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ひかり町ガイドブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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