2006年02月19日

「僕たちは志願するんです」
 若いゾンビが言った。
「そいつはいいや」
「乾杯してくださいよ」
 肌は土気色で衣服は破れ、湿っていた。においはそんなにひどくなかったが、死体置き場で香料を飲まされたからではない。活動を再開すると、彼らの組成は死体とは別のものに変わる。一般の腐ってゆくばかりの死体とは異なり鉱物的な増殖さえもするらしい。
 徴兵所へ行けば一発合格はまちがいなし。なにしろ一度死んでいるので、滅多なことではくたばらない。
 それであらかじめ祝杯を上げようと、まあそんなわけだった。
「どうもね。僕たちはまだ死んでから日が浅いんで、死体でいることに慣れないんです」 青黒く斑点の生じた顔に快活な笑顔をつくって一人が言うと、
「とても、じっと死んでなんかいられない」
「墓の中は退屈で」
「尻は冷たいし」
「戦争なら、なあ、そうだろ。戦争なら活動的で僕たちにぴったりだと思うんです」
「エンディミオンの軍はケープ・コッドに上陸したそうだよ」
 そう告げると、カウンターで彼らは気勢を上げる。
「ウラー!」
「乾杯!」
「戦果に」
「勝利に!」
 彼らが足を踏み鳴らすと、床を匍匐前進するおやじゾンビが、ゴキブリのように空中に跳ね上がる。

 

【解説】
第54回タイトル競作「☆」投稿。
◎一つ。○一つ。△二つ。×六つ。豪華絢爛。
逆選王!

 

posted by 不狼児 at 16:17| Comment(2) | TrackBack(0) | 500文字の心臓 超短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 どうもはじめまして。◎をつけさせて頂いた、脳内亭ことコウジと申します(普段は本名でやってます)。
あまり人様のサイトに伺うことはないのですが、☆の傑作を賛じたいあまりに、書き込みをお許し頂きたく存じます。
手放しで楽しめた作品でした。正直、やられた、と。まさに「☆」であると。実は、ひょっとしたら不狼児さんの作品なのではという予感も、発表前からしておりました。作者名が発表された時に、やっぱり、とそれについても嬉しくなった事を、重ねて申し上げておきます。
 次回の「プラスティックロマンス」、今のところ何も浮かばず苦戦しております。個人的には「☆」よりも遥かに難題ですけれど、提題者に報えるべく精進しますので、また、素晴らしい作品を期待しております。
突然の訪問に、気分を害されません様、それでは、失礼しました。
Posted by コウジ at 2006年02月19日 21:40
 気分を害するなんて、とんでもない!
 大歓迎です。こんな辺境によくおいでくださいました。いつも脳内亭さんの独特な作品を楽しみに拝見しております。今回は「歌」を選挙の連呼などと邪推してしまい申し訳ありませんでしたが、なにせ音感はあまりよくないもので。しかし自由題では2作掲載! おめでとうございます。独特のいびつな感触、世界が徐々にずれてゆく動きが凄いです。
 ◎は有頂天になるほど嬉しかったです。傑作と言われると恥ずかしいですが、これを☆だ、と読んで頂けて幸せです。
 脳内亭さんの「プラスティックロマンス」楽しみです。いざ書こうとすると、思いついたのが嫌になるくらい難しいですね。このタイトルは……
Posted by 不狼児 at 2006年02月19日 23:01
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