「ほら。ここが僕のふるさとだ」
彼は錆びた消火栓の裏のゴミの溜まった路肩を指して言った。
雑居ビルの陰になった日も差さない路地の突き当り。湿ったコンクリートは黒ずんで、罅割れたモルタルのかけらも落ちていた。土埃にはガラスの粉も混じっている。
成人式の一週間後、彼は私にふるさとを案内すると言った。
ここがそうか。
振り向くと高圧線の鉄塔が見える。
「母は僕を産んですぐに、あそこで首を吊ったんだ」
近くに駅の変電所があるのだ。鉄塔は町外れから田んぼの中、道路ををはさみ、山肌を登り、延々と線を引いて連なっている。
「高圧線は母のふるさとまで続いている」
二十年。過ぎたのだ。街は廃墟のように静かで人の気配もない。
駅には塵が積もっている。
続きを読む