2011年08月22日

第9回ビーケーワン怪談大賞 選考結果発表

第9回ビーケーワン怪談大賞の選考結果が発表されております。

選考会議を読むと東雅夫選ベスト20に選ばれてましたよ。
死ぬほどうれしい!
文豪怪談の夢と幽霊というコンセプトがモロ好みだったので、その流れを汲むものをぜひ送りたかったのだ。

現実のリアリティは無理としても夢のリアリティは手に入れたいものだ、とつねづね考えていたけれど……
そっか。怖くないか。
今回は結構怖さを追求したつもりなのだが、やはり理屈で攻めるからだめなのか?

雰囲気で攻めるのは、確かに鏡花はぞっとするけど、ほわほわもくもくと言葉の雲を拡げていって、稲光の紐でぱっと縛って袋詰め、その袋を一息で裏返すような、あの一瞬の切り替えし、転調の妙は、誰にも真似ができない。
百けんのもたらす不気味さは、抑えて抑えて潮が引いて、引いた後の空隙に何かしらを呼び込むところにあるので、単純に怖いのとはちょっと違う。
だいたい超一流と比べて同程度にできないから諦めて別のやり方を、という姿勢が良くないのだけどな。

よく書けているけど怖くない。怪談じゃない、というのはあれか。インテルやレアルのモウリーニョはそりゃ強いし、勝つには勝つけど、チェルシーの時のような快感がない、ってのと同じか。
ドログバもいないしね。
イブラヒモビッチもクリロナもいい選手だけどタイプが違う。
素材と料理法。突出したものは両方が合致しないと生まれないということで。


posted by 不狼児 at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月12日

結晶

 彼は資産家で、働かないことが最高の贅沢と考えていたから、金は使うばかりで、これ以上財産を殖やそうとあくせくするなんてことはなかった。「働けば働くほど金は貯まらないものだ。人生は遊んでいる方が豊かになる」そう言って見せてくれたのが嘘か真か、患者に恨まれ殺された医者の塩漬け肉とか(「本物だよ。豚肉なんかじゃない。大半は喰われてしまった残りだ」)、自殺したアイドルの生手首とか(「生だよ、生。だから生きているんだって。握手してご覧。条件反射で握り返してくるよ」)、珍奇なコレクションの数々。「趣味、なんて熱狂的なものじゃない。別にその気はないんだが、自然と集まってくるんだなこれが」最も印象深かったのは、元は××財閥の持ち物で大勢の労働者から搾り取って凝縮したという、本物の血と汗の結晶だ。半透明の赤いやや歪な立方体で、大きさはマッチ箱ほど。結構な硬度で掌にのせても融けることはないが、まるで涙に濡れたかのように表面から徐々に透き通ってゆく。しばらくすると色はまばゆい真紅に変わり、「時間とか労働の対価とか、抽象的なものではない、これだけ純粋な結晶は希少だよ」とうそぶく彼の顔が鮮明に、逆さまに映って見えた。


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posted by 不狼児 at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 500文字の心臓 超短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする