上空一万メートル。飛行中の旅客機の中で四千年前のミイラが発見された。
トイレに立った乗客の一人が寝ぼけ眼で戻った席に、突如鎮座ましましていたのである。
高貴な身の上らしく波乱赤に染められた布に幾重にもくるまれ、空調を通して美人脳髄の汗腺香が馥郁と薫るのが、はっきりわかる。
布の隙間から覗く肌は年を経て、完璧に干からびていた。装飾品の類はいっさいない。
遡ること紀元前、天変地異により副葬品も、殉葬者も、棺すら用意できなかった家臣と神官はいにしえの呪術を使って死者を未来へ送り届けたのである。
機長は神官の霊に憑かれ、機内アナウンスする。
「本機にご搭乗のお客さまは時を越えて、死せる王のため、殉葬されることと相成りました。何卒残り少ない寿命をお楽しみ下さい」
乗客が騒ぎだし、正気に戻った副操縦士が緊急連絡。
どうやら美術館を副葬品に、住民をさらなる殉葬者に加えようと、大都市を狙って突っ込む気らしい。
撃墜命令。乗客の英雄的行為なんかに期待しない。
撃墜失敗。パイロットの脱出。
群青に一点の白い染み。見るまに大きくなって落下傘が花開くと、下界では見世物の始まりだ。
雲雀の囀りのはるか上、高射砲の弾幕が炸裂した。
「高射砲って、第二次大戦か!」
「タイムスリップ?」
「朝鮮戦争だ。中共軍がいる」
迎撃ミサイルを避けるため旅客機は時間のはざまをくぐり抜ける。
猿の手が命綱を引く。
飛行機は墜落する。
「本日はお日柄もよく」結婚式の会場あたり。
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