2011年04月11日

(タイトル入力が必須とは面倒な仕様だ)

プロフィールなんて気どりすぎて少しズッコケたくらいがちょうどいいな。
あまり糞真面目でも息苦しいし、気障に決めたら嫌味だけど、外しすぎても恰好悪い。
ふざけるのはいちばん迷惑。
いずれにしろ誰も「お前のことなんか何も知りたくない」のだという事実を肝に銘じておかないと、赤面するだけでは済まない。



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2011年04月10日

天空サーカス

 上空一万メートル。飛行中の旅客機の中で四千年前のミイラが発見された。
 トイレに立った乗客の一人が寝ぼけ眼で戻った席に、突如鎮座ましましていたのである。
 高貴な身の上らしく波乱赤に染められた布に幾重にもくるまれ、空調を通して美人脳髄の汗腺香が馥郁と薫るのが、はっきりわかる。
 布の隙間から覗く肌は年を経て、完璧に干からびていた。装飾品の類はいっさいない。
 遡ること紀元前、天変地異により副葬品も、殉葬者も、棺すら用意できなかった家臣と神官はいにしえの呪術を使って死者を未来へ送り届けたのである。
 機長は神官の霊に憑かれ、機内アナウンスする。
「本機にご搭乗のお客さまは時を越えて、死せる王のため、殉葬されることと相成りました。何卒残り少ない寿命をお楽しみ下さい」
 乗客が騒ぎだし、正気に戻った副操縦士が緊急連絡。
 どうやら美術館を副葬品に、住民をさらなる殉葬者に加えようと、大都市を狙って突っ込む気らしい。
 撃墜命令。乗客の英雄的行為なんかに期待しない。
 撃墜失敗。パイロットの脱出。
 群青に一点の白い染み。見るまに大きくなって落下傘が花開くと、下界では見世物の始まりだ。
 雲雀の囀りのはるか上、高射砲の弾幕が炸裂した。
「高射砲って、第二次大戦か!」
「タイムスリップ?」
「朝鮮戦争だ。中共軍がいる」
 迎撃ミサイルを避けるため旅客機は時間のはざまをくぐり抜ける。
 猿の手が命綱を引く。
 飛行機は墜落する。
「本日はお日柄もよく」結婚式の会場あたり。


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時代

 いちじくの実が熟する季節になると、砂ノ子守リ蟻は口を閉じた果実の内部にしのびこみ巣をつくる。砂ノ子守リ蟻は無きに勝るの諺どおり、赤蟻の千分の一の大きさで、無論人の目には見えない。女王は種の一つ一つに卵を産む。人や獣が食すとその実はひときわ甘く、芳しく、爽やかな酸味に恍惚をおぼえるという。いちじくの種は消化されることなく腸に達し、そこで孵った砂ノ子守リ蟻の幼虫は腸壁を破って血管に入りこみ、たどりついた頭部で脳を食べながら、ゆっくりと成長する。なにしろ非常に小さいので、幼虫に食べられたくらいでは宿主に害はない。むしろ火口のような微細な瑕疵と幼虫の排泄する酸性の糞が脳の活動を刺激して才気煥発、獣ならば妖怪変化と成り、人であれば天下を獲ると伝えられる。孫悟空と同様、秦の始皇帝もまたいちじくの実を食べたろう。年を経て、少食の砂ノ子守リ蟻といえど餌を食べ尽くす時がくる。宿主は痴呆化して、愚行と狂乱と衰弱の時期のいずれかにいちじくの木とめぐり逢う。砂ノ子守リ蟻は耳の穴から体外へ、巣作りの遠征に発つ。


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あおぞらにんぎょ

かえりたくない
たまごのままで いたくない
かえりたい
うみのなかへは もどれない
かえったら
おしおきだ きっとそうだ
かえれない かえれば かえる
はだかのにんぎょ
ひのひかりが いたいよう


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気がつけば三桁

 死刑になるのが当然の重罪に死刑を適用しても抑止力にはならない。人を殺すにはそれなりの事情か覚悟がいる。軽犯罪に対して重い罰を与えれば効果はてきめんだ。振り込め詐欺の現金を引き出しに来た使い走りはその場で射殺するとか。万引きをしたら指を詰めるようにすればいい。一回捕まると一本。それでもめげずに盗み続ける者はいて、右手に三本、左手には二本しか指がない女子高生とか、足の指が全部ない剛の者も現れる。逃走犯は足の指も落とされるのだ。スクール水着は着れるにしても水泳の授業では溺れそうになる。さんざん罰を受けた人間は前科×犯としてではなく、艱難辛苦をくぐり抜け生き延びた者として尊敬されるようになるだろう。信号無視で目を抉られ、嘘をついて舌を抜かれ、職務質問に答えないか逆らうかして歯を折られ、盗みと詐欺で両手両足を切り落とされた達磨のような受付嬢が大企業の窓口を飾る日も、そう遠くない。


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外れた町

 関東でいちばん暑いからと言って全国一位ではない。
 テレビの画面には熊谷の焼け焦げたビルの壁が映っている。多治見の町並はまだ炎を上げていた。町全体が紅蓮の炎に呑み込まれ、なのに住人はそこにいた。心頭を滅却すれば火もまた涼し。子供達は頭上の炎をなびかせて裸で走り回った。湿気がないので熱中症も起こしにくい。
 太陽が沈むと業火も静まる。大人達は燃え残った服を着て地下のビヤホールへ涼みに行く。上昇気流が浄化した夜空に星が瞬き、焼け跡には涼しい風が吹いて過ごしやすい。
 熊谷や館林から逃げ出した住人を埼玉難民とか関東流民と言うのに対して、いち早く適応した彼らを岐阜原人と呼んだ。毎日のように全財産が焼失する町では補償の額も半端なく、住人は仕事もせずに遊んで暮らせた。昼間、燃えるほど暑くならない周辺の町では中途半端な被害が暮らし向きを悪くするばかりだ。炎に適応しそこねた関東流民など、貧乏くじを引いたのは俺達だと嘆くことしきり。
 いずれは補償も途絶えよう。が、原人になれないと生き残ることさえ難しいのだ。
 京都が燃えるのは当たりか外れか。観光都市としては致命的な痛手だろうが、日本中が原始化する魁に、京都原人がどんな生き物になるか見てみたい気もする。


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posted by 不狼児 at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 500文字の心臓 超短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする