2006年10月30日

夜夜半

 微かに呻くような音が聞こえる。
 さっき止めたばかりのバイクのエンジンはまだ熱い。が、唸ってはいない。あの緑の非常灯? ではなさそうだ。ジージーという連続音ではないからだ。蝉ではない。なんだか歌うような、消え入りそうな、そう、声だ。人間の声だ。
 バイクのトランクに恋人をしまいこんだまま、すっかり忘れていた。


 

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2006年10月21日

夢その79

「26年だっけ。どうしてこんなふうに育ってしまったの?」
 大切な嫁と孫を拉致された隣人が、隣の夫婦に盛んに文句を言っているのを、自分は集合住宅の窓から外を眺めている。みすぼらしい家庭菜園を背景に、おどおどと、まともに受け答えもできない。その夫婦の息子が犯人なのだ。聞き込みでは小学生にまでお金をせびられたと、被害者である隣人はヒステリックではないけれど、理不尽なまでに執拗に責めつづける。


 

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2006年10月20日

松本零士「盗用」で槇原敬之に謝罪要求


http://www.zakzak.co.jp/gei/2006_10/g2006101901.html
(原文では前者にだけさん付けされているが、不公平だと思ったんで敬称排除)

 三日間、文章が書けない。だんだん、状態、ひどくなる。昨日より、今日の状態が悪い。これはいけない。なんとかしないと。
 で、以下、練習。

 松本零士が槇原敬之に盗作だと謝罪要求した、というニュース。
 思い出したのは『探検ロマン世界遺産』。NHKの番組のこと。障害が多いので簡単には見れない。録画してユーミンの歌を早送り。三宅民夫の死ぬほど恥ずかしいナレーションを我慢する。加えて定年退職した銀河鉄道の車掌さん、じゃなくて使い回しキャラ、Dr.ロマンのもってまわった長広舌。これらを乗り越えないと。
 しかも内容は5分間の帯番組『シリーズ世界遺産100』より薄い。
 よほど体調がよくて、どうしても見たい場所でない限りは、到底耐えられない。

 NHKはやっぱりキャラクター使用料を払っているのだろうか。
 「時間は夢を裏切らない 夢も時間を裏切ってはならない」漫画家はそれをちゃんと世界遺産保護のために寄付しているのだろうか。

 と言うわけで松本零士の印象は非常に悪い。
 槇原敬之になりかわり、一言。
 盗用? ネタが尽きてパチモンで小遣い稼ぎしてる老い耄れに言われたくはないな。

 ……全然駄目。陰陰滅滅とした嫌味ってのはいただけない。

「時間は夢を裏切らない 夢も時間を裏切ってはならない」

 このセンテンスはそもそも意味内容のはっきりしない、と言うか内容空疎な一文なので、松本零士が誰もが軽々に思いつくものではないと考えるのは理解できる。夢が時間を超えるとか、時間は夢を侵せないならともかく、夢と時間は契約もしていないし、恋愛関係にあったわけでもないので「裏切る」ことはできない――「にんげんだもの」みたいにつまらないなりに論理構成のはっきりしたお題目とは違う。普通の日本語の文章ではないので、山田悠介じゃあるまいし、フツーの表現者では思いつかないだろうというのも頷ける。

 だんだん調子に乗ってきた。これでもう少し突拍子もない論理を展開できれば、面白くなりそう?

 槇原敬之もどこかで又聞きしたことはあるのかもしれない。しかし「世界にひとつだけの花」を見ればわかるように、槇原は人と違った考えを披露したいタイプではなく、「誰もが思うようなこと」を歌にする、きわめてありふれた考えをメロディに乗せて、それで共感を呼びよせるということを意識して行っている「アーティスト」なので、聞いたとしても、独創的な思考とは思わないから、無意識にストックして、当然のことのように使用した。

 ところが松本零士にとってはこのフレーズは常識的な思考などではなく、日本語として意味を成さない、つまり空っぽの器に自らの思いだけを充填した独自のもの、松本零士の思い入れなしでは意味を生まない言葉、それ故にかけがえのないセンテンスであったわけだ。時間という主語に対して「〜ならない」を使うところには、自分の言葉を槇原敬之が「知らないはずはない」と言い切る思考の傲慢さがよくあらわれている。

 さて、オチだ。

 槇原敬之が使ったフレーズが「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」とより日本語として自然な流れになっていることからも、ナンバーワンよりオンリーワンと同じレベルの常識として使用したのは明らかだ。盗作の意識はないだろう。「夢は時間を裏切らない」で検索をかけてみるとおびただしい数がヒットするから、星野鉄郎の言葉だと知っていたことも考えられる。御大はたいてい常識的なモットーを後生大事に抱えているものだから、まさかそれが「早起きは三文の徳(三文の得、でない所がミソなのか! 初めて知った)」並みにオリジナルな言葉とは考えなかったと見える。

 落ちないし、落とそうとすると全然面白くない。
 松本零士も自分のお題目が常識レベルにまで広がったのだと思えば、歓べなくもないと思うのだが、そんなにまでして自分のものにして置きたいとはね。

 ……しかし唯一の考えとか、侵しがたいオリジナリティが存在するなんて、一神教的原理主義的な思考方法は好きじゃないな。思考は一人のものではないし、真実であればなおさら、独占することはできない。僕が物を考える時、それは僕が自分だけで考えているのではない、他の人間の無数の思考を使って考えるのだ。

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2006年10月13日

指紋と薬


    全指紋採取を今秋開始=入国審査、08年末までに完全実施−米
             (時事通信)2006年9月9日13時0分

 アメリカ政府に指紋データなんか採られたら、知らないうちに謎の殺人事件の犯人にされていそうで怖い。あるいは第二のオズワルド、ヒラリー・クリントン大統領の暗殺犯か――

 テロにつける薬はない。ウィルス感染症と違って患者の体がなくなってもテロリスムは滅びない。たとえ捏造国家が滅び去ろうと――いやもうすでに滅びかけているではないか、アメリカでは全土に狂牛病が蔓延し(レーガンがアルツハイマーでなかった事実はかろうじて隠しおおせたものの)、人々はくるくるパーになった頭でブッシュに投票したり、借金して家を買ったり、ビル・ゲイツの慈善事業に喝采してみたり、……こんなふうに、いつもの調子で「イスラム原理主義者やネオコンは水虫のように根治しがたい。ところが水虫の特効薬を打つとあらふしぎ、狂牛病患者がたちまち回復。それどころかネオナチやKKK、民族主義者や数少ない共産主義者の生き残り、全世界のありとあらゆる狂信者たちと思想の病が完治した。ボケも狂信も病根は同じでプリオンの増殖でも脳の萎縮でもなく疥癬菌の一種が蔓延っていたのだとは」とここまで書いた時に、はたと気づいた。
 あろうことか! 私の物語る才能が消え去っていた。水虫の薬か、それとも嘘から滲み出た真実のエキスが作用したのか、書いているうちに治療されてしまったらしい。
 大変だ! バカにつける薬はないが、フィクションに効く水虫薬が存在するとなれば、バカも利巧も絶滅する。
 信仰が虚構なら、夢も真実もつくりもの、行為は夢幻と消え、水虫は蹠と指の股に巣喰う虚構の大伽藍、萎びた空中楼閣は虚構物質が破壊されるとたちまちにして雲散霧消、そこかしこで人々を虐殺してやまないテロリストも軍隊も喧しいだけの幽霊と化した。
 世界はまだ存在した。だが早晩、幽霊に浸蝕されてしまうだろう。真実でしかない幽霊はもはや宿主を殺して恥じないウィルスのように容赦ない。


 

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2006年10月12日

夜の観察会

 汚イゾ。
 ソンナトコロデオレヲ見テイルナンテ。
 オマエハ一体ダレノ目ダ?

 天井に開いた節穴から、わたしはあなたを見張っている。あなたのすべて、一挙手一投足を。わたしの耳が安らかな寝息を聞くまで。

 仄暗いピアスの穴から見張っている。あなたが町を歩いていても、耳に穴をあけた女の子がいる限りわたしにはあなたのことが全部わかる。

 オレノイナイ空っぽの部屋には、太陽風に凍える夜が身を潜めている。

 夜がそのはためく巨大な耳をひるがえすと、漏斗状に抉られたピアスの穴は白く光る満月となって、オレヲ眺メ下シテイル。

 ツマンナイTVの前にはダレモイナイ。

 オレノ子ヲ孕んだオマエハ――ソシテ膝ニ抱エル我ガ子ノ幻ハ――、かつて見たどの夜よりも美しい。


 

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posted by 不狼児 at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 500文字の心臓 超短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする